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無料のおもしろネタ画像『デコじろう』用アイコン02 伝説の野菜がつなぐ、人の絆   

商学部商業貿易学科二年 三橋真紀子



私は今回、第九九回多摩探検隊「伝説の『のらぼう』を追う」のリポーターに思いがけず抜擢された。リポーター志望ではなかったので、まさか自分が...との思いが強く、「どうしよう。どんな風に話せばいい。出身地の福岡のなまりが出ないだろうか。うまく笑顔が作れるだろうか...」と、いろいろな思いが交錯して、最初はひたすら混乱した。そもそも「のらぼう」という言葉すら聞いた事が無い。野菜だということすら、知らなかった。そんな何も知らない私が、「のらぼう」の魅力を伝えることが出来るのか。むしろ私を通すことで、のらぼうの魅力が伝わらなくなってしまうのではないかと、大きな不安でいっぱいだった。

しかし、ディレクターやクルーと何回も会議を重ねていくうちに、「のらぼう」に少しずつ愛着が湧いてくる自分がいた。特に、「武蔵五日市にしかない『のらぼう』がある。二四〇年も前から、地域の人々に愛され続けている。その野菜が現在、地域活性化に役立っている。そのことを伝えたい」というディレクターの熱い想いを聞く度に、私も、「のらぼう」を多くの人に知ってほしい、その良さを伝えたいと思うように、自然となっていった。

そして迎えた撮影当日。春の日差しに、冬の空気がただよう武蔵五日市。「のらぼう」生産農家の樽(たる)さんにお会いした。とても気さくな方で、私の緊張もほぐれていった。樽さんへのインタビューは、番組の中では一番大切な骨格だった。「のらぼう」作りの伝統を守り続ける当事者であり、その熱い思いを伝えることが、ディレクターの願いであった。樽さんは、私と二人で話しているときに、笑顔でこう言ってくれた。

「『のらぼう』作りは代々受け継いできたもの。自分が作ったものを配ることで、みんなが喜ぶ。その笑顔が見たいから、やはり『のらぼう』作りはやめられない」と。

「のらぼう」の歴史と生産者の樽さんの熱い思いを、私も伝えたいと思った。しかし、いざカメラが回り、インタビューが始まると、樽さんは口ごもった。なかなか言葉が出てこない。「落ち着いてくださいね。もう一回やりましょう」と、何回かチャレンジしたが、うまくいかない。私も焦ってきた。ディレクターの額にも汗がにじむ。しかし、その時、決められた台詞を投げ掛けるだけの私のやり方がだめなのだ、と気づいた。樽さんのあの言葉は、私と樽さんとの、何気ない会話の中で引き出せた「真実の想い」だった。そして、最後にカメラが回り出したとき、私は樽さんとの会話を楽しもうと決心した。

型にはまった質問ではなく、自分の言葉で樽さんに話しかけた。すると樽さんも、私と二人で話していた時のように、自然と言葉がすらすら出てくるではないか。さっきのように、素直な飾らない言葉が...。「やった!」。私はインタビューしながら、こみ上げてくる熱い思いを、そして緩みそうな涙腺を必死でこらえた。

リポーターをやってみて、気づいたことが二つあった。一つは、リポーターはただのディレクターの代弁者ではないこと。リポーター自身が、取材対象の深い心情や思いを理解しなければ、コンセプトは絶対に伝わらない。まず、取材対象と信頼関係を構築し、相手の本音を知り、思いを引き出すことが大切なのだ。二つめは、リポーターは番組の要だということ。取材者の本当の思いを引き出せるかどうかは、リポーターの腕にかかっている。今回このことを特に強く感じた。やりがいのある仕事だった。やって良かったと心から思った。

実家がある福岡を離れ、遠い東京、多摩の地に来てから一年。たとえリポートとはいえ、こんなにひたすら同じ野菜を食べ続けることになろうとは、考えもしなかった。けれど、嫌いだったわさび醤油も、「のらぼう」のおかげで、おいしいと思えるようになった。本当に出会いとは不思議なものだ。三月に行われた子生神社の「のらぼうまつり」を取材した際に、「この町は『のらぼう』でつながっている。『のらぼう』を守らなければ、町自体が廃れてしまう。今ある交流も、一緒に無くなる。なんとかそれを阻止したい」という町の人々の思いを聞いた。この思いがつまった祭りによって、私のようにまた新しい出会いがあり、新しい繋がりを広げていけることだろう。思いが強ければ強いほど、願いは叶うものだと思った。

この五日市で、私はたくさんの人に出会った。出会った人からそれぞれの「熱い思い」を感じてきた。そのことで、「のらぼう」が二四〇年もの間繋いできた人々の絆の一端に、私も少しだけ関われたような気がする。心の中に灯を灯すような、温かな出会いだった。こういう縁を大切にしながら、これからも「多摩探検隊」の活動を頑張っていこうと心に誓った。

by tamatanweb | 2012-10-01 00:00 | 制作日誌

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