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無料のおもしろネタ画像『デコじろう』用アイコン02 高浜子ども放送局 ―白砂青松の町の小さな感動   

大学院 総合政策研究科 博士前期課程 2年 廣田衣里子

※子どもたちの制作をサポートするティーチングアシスタント(TA)が執筆しています

白砂青松の町・高浜町

福井県高浜町という町をご存知だろうか。福井県の最西端にあり、若狭湾国定公園に指定されている。美しい海と山々に囲まれる人口12,000人ほどの小さな町で、夏には海水浴、冬にはフグやカニ目当てに、近隣の府県からたくさんの観光客が訪れる。関西電力の高浜原子力発電所がある場所といえば、耳にしたことがある方も多いだろう。

その高浜町で、毎年夏に「若狭たかはま漁火想(いさりびそう)」と呼ばれる町最大のお祭りが行われる。町おこしを基軸とした住民企画・参加型のイベントで、たくさんの住民たちがボランティアとして祭りを支え、観光や産業の推進に一役かっている。

高浜子ども放送局とは

この「漁火想」を、地元の小中学生たちが取材・撮影し放送用の番組を制作する「高浜子ども放送局」が、2003年から毎年おこなわれている。中央大学FLPジャーナリズムプログラム松野良一ゼミが、高浜町観光協会、高浜町教育委員会と協力しておこなっている地域情報化、地域活性化プロジェクトだ。

制作される番組には、漁火想の目玉イベントである砂浜キャンドルや水中花火に加え、町の人のゆかいなインタビューが盛りだくさん。2005年の作品では漁火想の様子だけでなく、街にくりだして高浜町の魅力をリポートした。子供たちのずっこけぶりと一生懸命さで、なぜか大爆笑してしまう番組ばかりである。

子どもの成長にびっくり

子供2、3人の撮影チームに学生1人がティーチング・アシスタント(TA)として付く。ビデオカメラでの撮影や取材交渉の仕方を教える。子供たちは最初、恥ずかしがってビデオカメラの前でリポートしたり、知らない人に声をかけることがなかなかできない。しかし、3時間もすれば自分でカメラを持って撮りたいものに駆け寄り、どうしたらきれいに撮れるかを考えたり、マイクを持ってしっかりレポートができるようになる。TAである私は、いつもその光景に感心させられてしまう。時には、取材対象にアドリブの質問をして笑わせてくれたりもするから驚きだ。

地域情報化にも貢献

町の人にインタビューをしようと出演のお願いをすると「ああ、前に○チャンネルでやっていたやつでしょ?見たよ。」と快く受けてくださる人も最近では出てきた。前年の番組をテレビで見て、興味をもったという声も聞いた。普段は緊急災害情報のための文字放送が多く流れるCATVのチャンネルに、子供たちの番組が流れることに相当のインパクトがあったのだろう。高度のインフラが整備されているもののコンテンツ不足という地域情報化の問題の解決にも、この子ども放送局は貢献しているようだ。

上映会の感動

過去の番組(合計5作品、3時間)を一挙上映する上映会も、2006年に高浜町文化会館のホールで行った。会場には地域の住民や役所の方々約70名が集まり、子供たちのリポートに爆笑したり感動したりする光景が見られた。

作品上映後に、制作者として舞台あいさつする子どもたちの姿は、撮影前にカメラの前でモジモジしていた彼らとは違う、自分たちの番組を完成させた喜びと自信に満ち溢れていた。

来場した地域の方々は、「面白かった」「子供たちのレポートがかわいかった」など、さまざまな感想を下さった。中には「高浜町にはいい所がいっぱいあると、改めて知った」と、町にさらに愛着を感じるお客さん。特に印象に残っているのは、学校の先生や親御さんたちが「子供たちはとてもよく頑張った。ほめてあげたい。」と、目に涙を浮かべていたことだ。子供たちの番組がこれほどの感動を呼ぶとは予想しておらず、この上映会は私にとって印象深いものになった。

子ども放送局の意味

私はこの活動に携わったことで、わかったことが3つある。

1. 子供放送局のプロジェクトは、メディア教育にとても効果的である。普段視聴しているだけのテレビ番組を子供たちが自分の手で制作することによってメディアリテラシー(メディアを読み解き、批評的に視聴する能力)、および自ら取材活動を行うことによる自主性・コミュニケーション能力の育成に役立つ。

2. 子供たちが制作した番組は、コンテンツとしての価値が高い。地域のことを子供たちがリポートし、紹介する番組は、芸能人リポーターが出演する番組とは違う魅力があり、時には子供たちの方が面白い番組を作ることができる。

3. 子供たちの番組は、地域活性化の起爆剤になる。子供たちが街をリポートすることによって自ら地域のことを知るということはもちろん、地域の面白い番組を地域の人々が見ることによって地域への興味や愛着を感じることにつながる。それが地域の活性化にとって重要な要素になる。

子供放送局の魅力は、なんといっても感動だ。面白いのは番組だけではない。子供たちの成長、地域の魅力の再発見...。地域の皆さんと一緒になって番組を制作し、そのコンテンツによって地域に新しい価値を創造する。地域の行政や企業だけではできない、みんなで作り上げる地域活性化がそこにはある。

by tamatanweb | 2007-04-01 00:00 | 高浜子ども放送局

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