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無料のおもしろネタ画像『デコじろう』用アイコン02 絶滅寸前の「ミゾゴイ」を追いかけて   

 総合政策学部政策科学科3年 中川健太郎

 「伝説の鳥ミゾゴイ」。ミゾゴイとは、東京都多摩地域に生息するサギ科の夏鳥である。江戸時代には、オランダ人医師のシーボルトが絵に描いており、身近な存在だった。しかし今では環境省のレッドリストに載るほど数を減らし、伝説の鳥となっている。私がミゾゴイの危機的状況を知ったのは、2015年3月のこと。多摩地域に絶滅危惧種がいることに驚いた。生物多様性が話題になっている昨今において、身近にある問題が広く知られていないことはおかしい。そう思った私は、ディレクターとして「ミゾゴイ」をテーマにした番組を制作し、2016年7月にケーブルテレビで放送された。
 しかし、私はこの番組制作を通して、「学生である自分の甘さ」を思い知らされた。2015年5月上旬、私はまずインターネットで、ミゾゴイが4~5月につがいを作るため「プープー」という独特な鳴き声をすることを知り、ミゾゴイの目撃情報が多いあきる野市の森で捜索を始めた。伝説の鳥と呼ばれる通り、簡単に見つけることはできず、鳴き声さえも聞くことができなかった。
 これに加え、長年ミゾゴイを調査している方への取材交渉にも失敗した。私たちのミゾゴイ捜索の現状や取材内容がしっかり伝わらず、私から熱意が感じられないと、その方に取材を断られてしまったのである。
 「多摩探検隊」制作プロデューサーから、同企画をボツにするという話まで出てきた。私は、このままボツにすることだけはしたくないと思い、新たな取材対象者を見つける努力を続けることにした。そして、神奈川県横浜市西区野毛山動物園で獣医をしている松本令以(れい)さんと、あきる野市役所にて森林レンジャーをされているパブロ・アパリシオさんを見つけ出し、インタビューを申し込んだ。やっとのことで、了解を得ることができた。
 松本令以さんは、2015年6月に全国で初めて成功したミゾゴイの繁殖に関わった方である。普段は野毛山動物園でミゾゴイの飼育をしながら、ミゾゴイの生態について研究されていた。
 インタビューでは、ミゾゴイの生態の詳細や飼育時の苦労を事務的に聞くだけで、臨機応変にお話を聞くことができず、リポーターと松本さんを困らせてしまった。それは学生気分が抜けず、受け身にしか行動していなかった私に原因があった。そのことを取材後、撮影に同行してもらったクルーに言われ、初めて気づかされた。
 前回の取材から反省し、様々なパターンの質問項目を用意して挑んだのが、パブロ・アパリシオさんへの取材であった。パブロさんはあきる野市で実際にミゾゴイを発見し撮影に成功し、現在もミゾゴイの調査を続けている方だ。インタビューでは、私のミゾゴイへの熱意が伝わったのか、当初予定していなかった撮影をすることができた。市役所内での撮影だけだったものが、普段どのように野外調査をされているかについて実際に外に出て、解説していただいたのである。パブロさんは、あきる野の森を見ながら、こう言った。
 「ミゾゴイのことだけを考えていては、より良い自然環境を生み出すことはできない」
 ミゾゴイの絶滅危機というミクロの問題から、生態系の保護というマクロな視野を得た瞬間であった。本やインターネットで調べた様々な情報を、一つ一つ実際に確かめることができ、今までに体感したことのない快感を得た。
 インタビューを終えた後、動画編集へと移ったが、ここでも壁にぶつかった。ミゾゴイの知識が増えたことにより、自分が知った情報だけをまとめただけの自己満足な動画を制作してしまったのである。誰に何を伝えたいのかを考えずに、行動した結果だった。そのことをゼミの先生から指摘されてからは、もう一度番組制作の意図を考え、編集し直す日々が続いた。そして番組が完成したのが、2016年6月のことであった。
 番組完成後、関わってくださった方々にお礼を言っていた時に気づいたことは、その人数の多さだった。取材対象者だけではなく、リポーターやカメラマン、動画や構成表をチェックしてくださった方など、改めて自分一人だけでは何もできないことを実感した。それと同時に私が本気で話をしなければ、本気で返してくれる方はいないことも思い知ることができた。今回の番組制作を経て、学生気分のまま受動的に物事に取り組むのではなく、人と積極的に関わっていくことを、強く心に誓った。

by tamatanweb | 2016-11-01 00:00 | 制作日誌

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