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無料のおもしろネタ画像『デコじろう』用アイコン02 「80歳差」のインタビュー ―特別養護老人ホームで考えたこと―   

 総合政策学部国際政策文化学科2年 會田野乃花

 特別養護老人ホームを訪問して、お年寄りに人生について語ってもらう。そして、インタビューは、年齢差80歳もある小学生にしてもらう。私は、そういう企画を考えた。特別養護老人ホームがどのような場所なのか、私はよく知らなかった。高齢化が進む時代に、私たち若者世代がもっと福祉や高齢者について知らなければいけない。そんな思いから、老人ホームに関する番組を制作したいと考えたのだ。
 私はまず、動画サイトで老人ホームをテーマにした動画を探した。しかし、施設の内部の様子を収めた映像の数は少なかった。「老人ホームでの撮影自体、とても貴重なのではないか」と思った。リポートを担当してくれることになったのは、東京都清瀬市の児童センター「ころぽっくる」に通う小学生。しかし、特別養護老人ホームの方が、なかなか決まらなかった。清瀬市の複数の施設に連絡したが、どこからも取材許可がおりない。最終的にようやく、特別養護老人ホーム「信愛の園」から許可をいただいた。年齢差約80歳の子どもと入居者の交流。さらに、小学生たちがお年寄りにインタビューする。果たして、お年寄りは、何と答えるのか。期待は膨らんだ。
 撮影に向け、子どもたちと3回の事前活動を行った。「企画、取材、インタビュー・撮影方法」を教えたほか、教育テレビの老人ホームへの訪問番組を鑑賞し、職員や入居者への質問を考えた。回を重ねるごとに、子どもたちから意見が出るようになった。「献立で大切なことってなんだろう」「戦争を体験した人のお話を聞いてみたい」。短期間で積極的になった子どもたちの成長ぶりに圧倒された。
 撮影を1ヶ月後に控えた5月、大学生クルー全員で老人ホームを見学した。私は、「老人ホーム=暗く、どんよりした所」と考えていた。しかし、老人ホームやそこに暮らす人々は、私のイメージに反してとても明るかった。見学中、会話を交わしたり、「私、テレビに映っちゃうのかしら。おめかししなくちゃね」と笑顔で答えてくれた女性入居者もいた。先入観で物事を考えることの愚かさを実感した。
 
 不安と期待が入り混じる中、撮影当日を迎えた。予想外の問答に驚いた。
 子どもの「戦争は怖かったですか?」という質問に対して、平出千代さん(90)は、こう答えた。
 「上から1トン爆弾と焼夷弾、海からは艦砲射撃で攻撃されました。でも、毎日毎日でしたから、戦争中は、あまり怖いというのを感じませんでした」「でも、戦争のことを知っているなんで、えらいですね。戦争のことを質問してくれてうれしいわ」
 子どもの「これから叶えたい夢はありますか?」という質問には、こう返ってきた。
 「健康を日々保って、誰にも迷惑をかけないようにしたいというのが一番ですね」
 池田ゆき子さん(96)には、長生きの秘訣を聞いた。答えは、こうだった。
 「おばちゃんはね、食いしん坊で、良く寝たから、長生きしてるのよ」
 その答えを聞いて、子どもたちも学生たちも、みな笑顔になった。

 「これから、挑戦したいことはあるか」という質問もした。
 黒崎守太朗さん(88)は「考えてみると、あぁ、こんな歳になったのか。もうやることやったし、終わりだな、という考えです」と微笑みながら語った。
 一方で、増田童郎さん(90)はこう答えた。「元気でいられりゃいいからね。運動や昔遊びに挑戦してみたいと思ってる」。
 ネガティブな反応を予想していた私は、入居者の言葉に驚きを隠せなかった。子どもの素朴な疑問に、素直な気持ちで答えていただいたのだと思った。また、1つの質問をとっても、全く異なる答えが出たことが面白かった。それぞれの歩んできた人生が、言葉に表れていた。
 
 撮影から1ヶ月半後の7月、児童センター「ころぽっくる」で、完成作品の上映会を行った。上映中は笑い声が起こる場面もたびたびあり、胸を撫で下ろした。撮影時、リポーターを務めた堀小花さんの母親から「(小花のリポートは)100点!」の言葉と、満面の笑顔をいただいた。その後、多摩探検隊12月放送後には、「(子どもの)ダイレクトな質問にストレートな答えをする(お年寄りの)姿に、涙が出てきた」という感想が寄せられた。この時初めて「映像制作っていいな」と思えた。
 今回の活動を通し、1つ心残りがある。戦争体験者の女性から、深い話を聞き出せなかったことだ。その場でリポーターに指示を出し、話を引き出さなければならない。私の仕切り不足だった。このことは、実際の撮影現場を体験したからこそ得ることができた教訓である。この経験を糧に、失敗を恐れず、さらに挑戦を続けていきたい。

by tamatanweb | 2017-05-01 00:00

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