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無料のおもしろネタ画像『デコじろう』用アイコン02 番組制作という険しい登山 ―そして頂上からの景色   

文学部 フランス語文学文化専攻 3年 野口 真菜美



登山を始める時、ゴールとなる山頂は遥か彼方に見える。しかし、多摩探検隊の番組制作は、ゴールが見えないほど長く険しい道である。

季節はすっかり秋となった10月中旬。早朝6時。空気は凛としていて、肌寒い。私は、高尾山のふもとに立っていた。2007年にミシュラン三ツ星を獲得し、世界一の年間登山者数を誇るその山で、多摩探検隊のリポート番組を制作しようとしていた。実はこの日は、リベンジとなる撮影だった。

「高尾山の魅力は毎日景色が違うところだね。日本には四季があるでしょ?その四季を植物や風景から感じることができるんだよ」。事前取材で出会った登山家の言葉に感動し、高尾山を取り上げることにした。しかし、いざ撮影をしてみると、ただ高尾山に登ってリポートするだけでは魅力を十分に伝えることはできなかった。木々の緑しか映っていなくて、変わり映えのしない映像に頭を抱えた。

そこでリベンジとなる撮影では、一つの大きなしかけを考えた。「山頂までの全5コースを1日で完全登覇する」というものだ。誰も挑戦しないであろうこの企画に挑むことで、様々な角度から高尾山の魅力を伝えることができると思ったからだ。ディレクター初挑戦の私とリポート初挑戦の2人、撮影クルー2人の計5人の大きな挑戦が始まった。私の仕切りやディレクションの悪さで、ただ歩くだけでも体力を奪われるリポーターやクルーに多大な迷惑をかけた。最後の登山ルートである「稲荷山コース」の山頂にたどりついた時は、もう辺りは懐中電灯が無いと見えない程暗く、登山開始から約12時間も経っていた。散々歩き回り、汗をかいた。しかし、真っ暗な山頂から見た都心の夜景は、驚くほど輝きを放ち目に焼きついた。

ところが、ここからさらに険しい山が待っていたのだ。撮影した映像をどう編集するか、何度も試行錯誤を繰り返した。何を伝えたくて、何が面白くて、何に苦労したのか。それが全く伝わらない。途中投げ出したくもなったが、高尾山を何時間もかけて歩いたあの日をなんとか形にして、高尾山の知られていない魅力を伝えたいという気持ちでいっぱいだった。そして、ゼミ生や先生にアドバイスをもらい支えられ、「多摩あるきたい! ~高尾山編~」を8ヶ月かかって完成させることができた。高尾山の全ルートを歩くより長い長い道のりだったように思う。この作品を見た人が、高尾山に行ってみたいと思ってくれたら、それ以上嬉しいことはない。

投げ出すことは簡単にできる。しかし、そこで工夫をし、やり方を変えてみて、一歩前に進めるかどうかに挑戦することで道が開けるのだということを学んだ。登山は苦しく、長い道のりをひたすら登るが、登りきった後から見る景色や達成感があるからこそ魅力的で、虜になってしまう。番組制作も同じように、完成するまで時間がかかり何度もくじけそうになるが、形となった時の達成感や充実感は何ものにも変えがたい。番組制作という大きな山を登りきった私は、この山の虜になってしまったのかもしれない。

by tamatanweb | 2010-01-01 00:00 | 制作日誌

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