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無料のおもしろネタ画像『デコじろう』用アイコン02 水と共に生きる街 ~「当たり前」と言う「ありがたみ」~   

総合政策学部政策科学科二年 鼎(かなえ)由起子



「日本の水はなんでこんなにおいしいの?」以前私は海外の友達にこう聞かれ、答えにつまってしまったことがある。たしかに、日本の水はおいしい。海外の水は飲めないこともしばしばである。水道水を飲めばお腹を壊してしまう国さえもある。日本に生まれ育った私にとって、水がおいしいことは当たり前だった。私は日本が水に恵まれた国であることを、つい忘れていたのだ。この会話が基となり、私は日本の水について調べ始めた。

調べていくうちに、「東京都で一番おいしい」と言われている昭島市の水に出逢った。市のホームページによると、昭島市は東京都で唯一、昭和二九年から地下水のみを水源としているらしい。昭島市のおいしい水を求めて、遠方から引っ越してくる方もいるようだ。都内で一番おいしいと言われる水、果たしてどのような味なのだろうか。とにかく昭島市に行って、水を飲んでみよう。早速私は昭島市に向かうことにした。

着いてからすぐ、私は昭島市役所に出向いた。そして、好奇心の赴くままに市役所で水道水を頂き、ごくりと飲んだ。「おいしい」。口に含むと、水道水とは思えない程水の甘みが感じられた。昭島市の水についてもっと知りたい。そう思った私は、市役所の方に昭島市の水を生かして活動を行っている方を紹介して頂いた。それが、藍染め作家の形山榮(え)依子(いこ)さん(七二)だ。形山さんは、都内の一番綺麗な水で藍染めをしたい、という想いから昭島市に越してきた方である。実際に形山さんにお会いしてお話を伺うと、昭島市の水への愛情が痛いほど伝わってきた。「藍染めの作品を通し水の大切さを伝えたい」と語る形山さんの目は輝いていた。形山さんは、「水」という当たり前のように身近にあるものを、とても大切にしている。だからこそ、形山さんの作品は美しいのかもしれない。私はそう感じた。それと同時に私は、より多くの昭島市の方に市内の水の美しさを改めて認識して頂き、大切にしてもらいたいと強く願った。また、日本の恵まれた自然環境について見つめ直す大切さを、少しでも視聴者に伝えられたら、と思った。こうして私は、昭島市の水に関する番組制作を決心した。

昭島市の水と人々の繋がりを番組で取り上げるため、昭島市の水を生かして活動されている方を新たに探した。そして私は形山さん以外にも、昭島市の水を使って蛍を育成している方、豆腐を作っている方にインタビューをした。取材をすればするほど、「昭島市の水のお陰で自分達の活動が出来る」という、一途な想いが浮かび上がった。

夢中になって取り組んだ撮影はあっという間に終わり、長い編集期間に突入した。編集の段階で、私は高い壁に直面した。多くの市民にとって水は当たり前の存在である。だからこそ、その大切さに気付いてもらえるような番組にすることが難しかったのだ。そんな時、私を支えてくれたのはゼミ生と家族だった。編集作業につまずいている私に、ゼミ生は多くの助言をして励ましてくれた。その助言のお陰で、私は番組へのこだわりや番組で伝えたいことを見つめ直すことができた。それから何日も何日も、私は納得がいくまで諦めずに編集を続けた。編集をしていると時間が経つのを忘れ、日をまたいで家に帰ることもしばしばであった。それでも、家に帰ると「おかえり」と言って私を迎えてくれる母親がいた。眠たそうな目をこすりながら、母親はいつも私の帰りを待っていてくれた。ゼミ生や家族。いつも当たり前だと思っていた存在に、どれ程支えられたか分からない。

初めての撮影から約三ヶ月。私は編集を無事にやり遂げ、完成した番組は二〇一三年ニ月、多摩地域と長崎県、福岡県のケーブルテレビ計八局で放送された。この完成は、私のことを当たり前のようにずっと支え続けてくれた人たちのお陰だ。そう思うと、感謝の気持ちで一杯になった。

この番組制作を通して私は、「当たり前」ということの有難みを感じた。近くにいると、その大切さになかなか気づくことができない。しかし、身近にある豊かな自然環境も、大切な人達の存在も、どれも当たり前のものはない。本当は、私の中で欠かすことのできない大切な存在なのだ。当たり前だと思っている存在に日々感謝し、大切にしていきたい。昭島市の水に触れることで、私はそう気付かされた。多くの方のお力添えのお陰で完成した作品。この作品が、視聴者の方の「当たり前」を「有難み」に変えるきっかけになって頂けたら幸いである。

by tamatanweb | 2013-03-01 00:00 | 制作日誌

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