「お台場学園放送局」で学んだこと
経済学部国際経済学科三年 藤澤明日香
二〇一二年三月、港区立小中一貫教育校のお台場学園で、「お台場学園放送局」が行われた。「お台場学園放送局」とは、お台場学園の中学校二年生が、学校紹介を行うテレビ番組を制作するというプロジェクトだ。このプロジェクトは「テレビ番組をつくろう」という中学二年生の国語の単元の学習をするために計画された。中学生が、取材・構成・撮影・リポートを行い、一本のテレビ番組を作った。私はTA及びディレクターという立場で、中学生たちのサポートをすることになった。
今回、私の担当した班の生徒たちは、「図書ゾーン」を紹介することになった。他の学校にある図書室とは違い、お台場学園の図書館は廊下との間に仕切りやドアがないため、「図書ゾーン」と呼ばれていて、小学生、中学生共同で使う広い共有スペースなのだ。そのため、机や椅子もゆとりをもって置かれ、蔵書も幅広く、小中一貫校ならではの素晴らしい設備が整っている。生徒たちにも大変好評だと聞いた。
授業中私は何度も「さあ、どんどん意見を出してね!」と私は呼びかけたが、なかなか返事が返ってこなかった。恥ずかしがってもじもじしている子、うつむいている子、ひそひそ話をする子。今どきの中学生独特の空気が、そこには漂っていた。それでも、何回かお台場学園に通い、昼休みに一緒に給食を食べながら話したりしているうちに、次第に生徒と打ち解けていった。
だんだんと生徒から意見が出るようになり、班での話し合いができるようになった。しかし一人の男の子(A君)だけ、何も意見を言っていないことに気がついた。活動に興味がないのかと私は心配になり、聞いてみると、どうやら、A君は図書ゾーンに行くことが少なく、何をどうリポートすればいいのか分からないということだった。そこで私は、A君が話し合いに参加できるように、なるべくA君に「どう思う?」とか、「どうしようか?」などと、話しかけることを心がけた。すると、ずっと黙っていたA君が「小中一貫校ならではの図書ゾーンの利点は何かあるのかな?」と、ぼそっと言った。「あっ!そうだね。それを考えてみようか?」。私がそう言うと、「じゃあ、僕行ってみる」と言うのだ。休み時間になると早速、A君は図書ゾーンに行き、そこで気がついたことや感じたことをメモし始めた。最初はおとなしく引っ込み思案に思えたA君だったが、その日から、人が変わったように積極的に意見を出してくれるようになった。
そして、いよいよ迎えた撮影日。最初は、リポートが早口になったり、カンぺをうまくめくれなかったりと、歩調がかみ合わず撮影は難航した。しかし、生徒同士で互いにアドバイスするなどして、徐々に撮影はスムーズに進むようになっていった。私が気になっていたA君はというと、最初ADとして、カメラのコードを持ったり、カンペをめくったりして、裏方の仕事を中心に黙々とやっていた。が、次第にカメラ本体にも興味を持ち始め、「このスイッチは何?」など、疑問に思ったことをTAに質問したり、リポーター役の子の練習に付き合い「この言い回しのほうが分かりやすいんじゃないかな」と、前に出てきて意見を言ってくれるようになった。楽しみながら撮影に取り組むA君を見て、人が変わっていく瞬間に出会えたことに、私は大きな感動を覚えていた。ちょっとした言葉かけ、ちょっとしたきっかけで、人は大きく変わっていく。言葉の持つ力の大きさ。子ども達が持っている限りない可能性。それらを少しでも引き出せたのではないか...―。私も彼らも、一歩前へ踏み出せたような気がした。
撮影した映像の編集を終え、最終日の上映会。教室は満員だった。番組紹介をしている彼らは、初日に比べるととても堂々としており、一回り大きく見えた。そして上映が始まると、普段一緒に過ごす仲間たちが校舎をリポートし、先生にインタビューしている様子を見て、大きな笑いが何度も起きた。そして最後には、多くの人が大きな拍手を送ってくれた。
上映会を終え、班の生徒たちが、私のところに一斉にやって来てくれた。「楽しかった!」「もうこの活動は終わりなの?」と、口々に言う。そして、あのA君も、少し遅れて私のもとへ駆け寄ってきた。そして、「楽しかった!またやりたい!」と弾けるような笑顔で言ってくれた。そして、このプロジェクトに参加出来て本当によかったと、心から思った。
活動が始まるまで、私にはうまくできるだろうかという不安しかなかった。実際、対象が中学生ということで、難しいことも多かった。でも今、私の心の中は、やり遂げた充実感と彼らへの感謝の気持ちでいっぱいだ。
A君たちが教室へ元気いっぱいに帰る後ろ姿を見ながら、「ありがとう!」と私は心の中で呟いた。
二〇一二年三月、港区立小中一貫教育校のお台場学園で、「お台場学園放送局」が行われた。「お台場学園放送局」とは、お台場学園の中学校二年生が、学校紹介を行うテレビ番組を制作するというプロジェクトだ。このプロジェクトは「テレビ番組をつくろう」という中学二年生の国語の単元の学習をするために計画された。中学生が、取材・構成・撮影・リポートを行い、一本のテレビ番組を作った。私はTA及びディレクターという立場で、中学生たちのサポートをすることになった。
今回、私の担当した班の生徒たちは、「図書ゾーン」を紹介することになった。他の学校にある図書室とは違い、お台場学園の図書館は廊下との間に仕切りやドアがないため、「図書ゾーン」と呼ばれていて、小学生、中学生共同で使う広い共有スペースなのだ。そのため、机や椅子もゆとりをもって置かれ、蔵書も幅広く、小中一貫校ならではの素晴らしい設備が整っている。生徒たちにも大変好評だと聞いた。
授業中私は何度も「さあ、どんどん意見を出してね!」と私は呼びかけたが、なかなか返事が返ってこなかった。恥ずかしがってもじもじしている子、うつむいている子、ひそひそ話をする子。今どきの中学生独特の空気が、そこには漂っていた。それでも、何回かお台場学園に通い、昼休みに一緒に給食を食べながら話したりしているうちに、次第に生徒と打ち解けていった。
だんだんと生徒から意見が出るようになり、班での話し合いができるようになった。しかし一人の男の子(A君)だけ、何も意見を言っていないことに気がついた。活動に興味がないのかと私は心配になり、聞いてみると、どうやら、A君は図書ゾーンに行くことが少なく、何をどうリポートすればいいのか分からないということだった。そこで私は、A君が話し合いに参加できるように、なるべくA君に「どう思う?」とか、「どうしようか?」などと、話しかけることを心がけた。すると、ずっと黙っていたA君が「小中一貫校ならではの図書ゾーンの利点は何かあるのかな?」と、ぼそっと言った。「あっ!そうだね。それを考えてみようか?」。私がそう言うと、「じゃあ、僕行ってみる」と言うのだ。休み時間になると早速、A君は図書ゾーンに行き、そこで気がついたことや感じたことをメモし始めた。最初はおとなしく引っ込み思案に思えたA君だったが、その日から、人が変わったように積極的に意見を出してくれるようになった。
そして、いよいよ迎えた撮影日。最初は、リポートが早口になったり、カンぺをうまくめくれなかったりと、歩調がかみ合わず撮影は難航した。しかし、生徒同士で互いにアドバイスするなどして、徐々に撮影はスムーズに進むようになっていった。私が気になっていたA君はというと、最初ADとして、カメラのコードを持ったり、カンペをめくったりして、裏方の仕事を中心に黙々とやっていた。が、次第にカメラ本体にも興味を持ち始め、「このスイッチは何?」など、疑問に思ったことをTAに質問したり、リポーター役の子の練習に付き合い「この言い回しのほうが分かりやすいんじゃないかな」と、前に出てきて意見を言ってくれるようになった。楽しみながら撮影に取り組むA君を見て、人が変わっていく瞬間に出会えたことに、私は大きな感動を覚えていた。ちょっとした言葉かけ、ちょっとしたきっかけで、人は大きく変わっていく。言葉の持つ力の大きさ。子ども達が持っている限りない可能性。それらを少しでも引き出せたのではないか...―。私も彼らも、一歩前へ踏み出せたような気がした。
撮影した映像の編集を終え、最終日の上映会。教室は満員だった。番組紹介をしている彼らは、初日に比べるととても堂々としており、一回り大きく見えた。そして上映が始まると、普段一緒に過ごす仲間たちが校舎をリポートし、先生にインタビューしている様子を見て、大きな笑いが何度も起きた。そして最後には、多くの人が大きな拍手を送ってくれた。
上映会を終え、班の生徒たちが、私のところに一斉にやって来てくれた。「楽しかった!」「もうこの活動は終わりなの?」と、口々に言う。そして、あのA君も、少し遅れて私のもとへ駆け寄ってきた。そして、「楽しかった!またやりたい!」と弾けるような笑顔で言ってくれた。そして、このプロジェクトに参加出来て本当によかったと、心から思った。
活動が始まるまで、私にはうまくできるだろうかという不安しかなかった。実際、対象が中学生ということで、難しいことも多かった。でも今、私の心の中は、やり遂げた充実感と彼らへの感謝の気持ちでいっぱいだ。
A君たちが教室へ元気いっぱいに帰る後ろ姿を見ながら、「ありがとう!」と私は心の中で呟いた。
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▲ by tamatanweb | 2012-09-01 00:00 | その他