いち学生が戦争体験を聴くことの意味
総合政策学部政策科学科四年 澤田紫門
「どんぐりと戦争」。ある冊子のタイトルだ。およそ似つかわしくない二つの言葉に、私は興味を持った。2014年2月のことである。その後、冊子の作者である調布市史研究家の古橋研一さんに話を聴いた。戦後の日本は食糧不足に陥っていた。全国の小学生児童にどんぐり採集を義務付け、どんぐりを使ったパン、乾パン、お焼きなどが食糧不足を補っていた。調布市にあった東京重機工業(現、JUKI株式会社)では、どんぐりの食品加工をしていた。
特攻隊、学徒出陣、沖縄地上戦など、自分が知っている戦争体験の多くが戦時中のもの。戦後の人々の生活に、私は目を向けていないと感じた。まさかどんぐりを食べなければならないほど困窮した生活を送っていたとは私は考えもしなかった。だからこそ、戦後の食糧難をテーマにした番組を制作したいと決心した。
古橋さんのご協力もあってか、何とか当時を知る兄弟を探し出した。兄の石井三衛さんと弟の石井成行さんだ。お二人ともどんぐり採集を体験し、成行さんはどんぐりの乾パンを食べたことがあるという。
撮影依頼をしたが、一度断られた。「もっと辛い体験をしたひとは大勢いる。彼らの前で戦後の体験を論じるのは気が進まない」。過酷な体験をされてきた方だからこその思いであった。しかし私は折れなかった。戦争を知らない人たちのために証言を遺したいと愚直に思いを伝え続けると、撮影を許可して下さった。
お二人は農家出身で、終戦後に農作業をよく手伝っていたという。しかし政府に作物を供出しなければならず、自分たちで作った作物を満足に食べることも叶わなかった。
取材を進めていく中で、ひとつ疑問に思ったことがある。それはお二人とも「最近の若者は食べ物を無駄にする」や「今の若者は食べ物の有難味がわかっていない」などの話を一切されなかったことだ。恐る恐るその理由を伺うと、「時代が変わってしまった。だから頭ごなしに若い世代に押し付けることはできない」という答えが返ってきた。
しかしお二人は最後に「戦争が嫌だということは身にしみている。もうあんなことは繰り返してはならない」と言った。70年もの間、この思いだけは守り続けてきたと思わせるほど、力のこもった言葉だった。
例え時代が流れ、人々の価値観が変わったとしても、守り続けていかなければならない思いがある。そして守り続けていく役目は、私たち若い世代にしかできないことだ。お二人の証言が私にそう気付かせてくれた。
# by tamatanweb | 2015-08-01 00:00